私が始めて飼育した熱帯魚はベタかラージグラスフィッシュのどちらかだと思うのですが、まだ幼かったころなので、はっきりとは覚えていません。
熱帯魚を本格的に飼い始めたのは小学5年生の頃、アプロケイルス・リネアタス(アプロキラス・リニアタス)のあまりのカッコ良さに夢中になってしまったのがきっかけでした。
アプロケイルス・リネアタスは熱帯アジア産の小型魚です。
体長10センチとアプロケイルス属としては大型で見応えがあり、オスの体はメタリックグリーンに輝きます。
ペリカンのような口や、大きな目、均整のとれた体型など、今でも私にとっては理想的な熱帯魚のひとつです。
大きな口で小型魚を呑み込んでしまうため混泳に適さないせいか、ここ数年はすっかりリネアタスの姿を見かけなくなってしまい寂しいかぎりですが、同じアプロケイルスの仲間でスマラグドレインボーという品種はたまに見かけることがあります。
もう何年も前ですが、この種が水槽いっぱいになるくらい繁殖したことがありました。
黄金色に輝く小さな熱帯魚の群れは壮観で、そのゴージャスな光景が今でも印象に残っています。
かつて日本ではAplocheilusはアプロキラスと読むのが一般的でしたが、現在ではアプロケイルスと言う読み方が定着しています。
ラテン語である学名の日本語よみについては国際動物命名規約に基づいていて、それに従えば「che」は「ケ」と読まなくてはなりません。
こうした規約が浸透していなかった20年以上前からのアクアリストにとってみれば、例えばシノレビアスがキノレビアスになったり、ネオセラトーダスがネオケラトドゥスになったりするのは少なからず違和感を覚えるところでありましょう。
さて、アプロケイルス・スマラグドレインボーなるインボイスネーム(熱帯魚につけられた商品名のようなもの)で流通しているこの熱帯魚、どういう経緯でどこからやってきた品種か、いろいろな人に聞いても確証は得られませんでした。
アプロケイルス・リネアトゥス(アプロキラス・リニアタス)に近いようですが、頭部から背中にかけてのラインを見ると、アプロケイルス・デイー(アプロキラス・ダイアイ)との雑種ではないかと言う印象です。
一般的に雑種の場合はよほど近い種類同士の雑種でないと二代と続かないものですが、この種はとても容易に殖やすことができるので、雑種であったとしても遺伝的には近い種同士と思われます。
アプロケイルス・スマラグドレインボーを殖やすには10リットルくらいの水槽があれば十分です。
よくこなれた水を使い、ウォータースプライトをたくさん浮かせます。
水槽内の水草や微生物のバランスが取れてきたら、あとは親魚に十分な量のエサを与えるだけです。
エサには高品質の人工飼料が適しています。
アプロケイルスの口は上にあるものを捕食するのに都合の良い構造になっているので、できるだけ浮力の強いエサを選びます。
もちろん残りエサが出ないような注意は必要ですが、最近の人工飼料は水を汚しにくいので昔ほどシビアにならずともいけるでしょう。
生エサは水を汚しやすいですし、栄養のかたよりや雑菌の混入などの可能性もあるので、特別な事情でもないかぎり与える必要はありません。
アプロケイルス・スマラグドレインボーの卵は毎日少しづつ、浮かせたウォータースプライトから長く垂れ下がる根に産み付けられます。
見て探すのは効率が悪いので、ウォータースプライトを水から出して根のあたりを丹念に触りまわしていくと、固くて丸い卵を見つけることができるでしょう。
これをプリンカップなどに集めます。
卵は粘着質ですが、指について離れないほどではありません。
ただし、カビなどの蔓延を防ぐためにもプリンカップの中で卵どうしがくっつかないように離しておいた方が安心です。
稚魚も少しづつ生まれてきますが、こちらは育ち具合に応じて大きさごとに細かく分ける必要があります。
さもなければ、大きい個体が周りの稚魚をみんな呑み込んで、最後には一匹だけになってしまうからです。
生まれた稚魚はすぐにブラインシュリンプの幼生を食べ始め、みるみる大きくなっていきます。