熱帯魚の価格はとても変動が大きく、どこかゲームソフトにも似た感じがします。
ネオンドワーフレインボーやレッドフィンレッドノーズなどのように、始めて日本に紹介された当初は美しさも価格もセンセーショナルだった当時の高級熱帯魚の多くも、今では安価に飼育できるポピュラーな熱帯魚になりました。
ポリプテルスも大きく価格の下がった熱帯魚のひとつです。
今や定番のポリプテルス・エンドリケリーも、今でこそ数千円で容易に入手できますが、30年くらい前はエンドリケリーだけでなくビチャータイプは全て40万円くらいが相場でした。
まだパルマスタイプの繁殖ですら未知の領域で、ビチャータイプの入荷も年に数匹というような時代です。
今から15年ほど前のマルプルッタの価格は、だいたい一匹600円ほどで、私も繁殖用に何ペアかを購入し、当時は洋書でしか観ることのできなかった繁殖行動を実際に目の当たりにできたときはとても感動的でした。
マルプルッタの飼育繁殖についてはパロスフロメヌス属よりもプセウドスフロメナス属に近い印象の熱帯魚で、繁殖も同様の手順でよく、稚魚の数こそ少ないですが特別な技術も要らず、親魚を状態よく飼育しているだけで、同じペアが数ヶ月おきに繁殖を行ってくれます。
そんなマルプルッタも、今ではドイツブリードのペアで数万円にもなっていたりします。
こうした例は他にも多く見られ、ダトニオイデスもある時期を境にみるみる価格が上がっていきましたし、数千円だったインペリアルゼブラプレコも10倍くらいに、更には千円ほどで売られていたこともあるブラックアロワナなどは、ここ数年でアッという間に価格が高騰し、今では20倍近くにもなってしましました。
熱帯魚というと寒さに弱いというイメージがあるのではないでしょうか。
実際、確かにその通りですし、特殊な場合を除いて、熱帯魚は日本の冬を保温なしで飼育することはできません。
ただし、熱帯魚ショップでは海外の温帯魚も売られていますので、もちろんそうした種類であれば無加温での飼育も可能です。
ドワーフモスキートフィッシュやリビュルス・キリンドラキウスなど、意外にその種類は多く、中にはチョウザメのように暑さに弱い観賞魚すら販売されています。
さて、ここまではいたって当たり前の話なのですが、実は熱帯魚の中には、寒さにも暑さにも弱い種がいる一方で、暑さにも寒さにも耐えうる種がいるのです。
特に熱帯アジアの低地に生息する熱帯魚には寒さに耐性を持つものが多いようで、私はベタ・スプレンデンスを10度を下回る環境の中、無加温でひと冬を越したことがあります。
もちろんこれは特殊な例ですし、とてもすすめられるような飼育方法でないことだけは確かなのですけど。
ところでドクターフィッシュは温泉のような40度近い高水温でも元気なため、寒さには弱いという思い込みをしがちですが、実は暑さだけでなく寒さにも強い熱帯魚です。
エサ食いは熱帯魚の状態を把握する上での重要な指標となりますが、ドクターフィッシュは10度近くでもエサを良く食べ、問題なく飼育することができます。
熱帯魚の中には、雨期と乾期がある地域に生息している種類もいます。
こうした地域に暮らす熱帯魚は、乾期になって水が干上がったとしても、なんとかして生きていかなくてはなりません。
そんな乾期を生き残るための能力としてよく知られているのが、土中で休眠するというものです。
特に多いのが卵の状態で休眠するという方法です。
このような方法は熱帯卵生メダカと呼ばれるグループや、カラシン科に属する熱帯魚の一部でみられ、わずかな雨期の間に驚異的な早さで成長を遂げ、乾期が来るまでの間に、少しでも多くの卵を土中に埋めるように産卵し、卵はわずかな湿気を頼りに雨が降るのを待ちます。
雨期が訪れて池ができると、数ヶ月もの間、土の中で耐え忍んできた卵からは次々と稚魚が誕生し、わずかな期間を全力で生きていくのです。
乾期になると土中にまゆを作り、雨期が来るまで夏眠する熱帯魚もいます。
いわゆる肺魚の仲間たちです。
肺魚は古生代に出現した原始的な魚類ですが、夏眠することができるのは原始肺魚類から高度に進化したプロトプテルスやレピドシレンという種類です。
こうした現生の肺魚類は乾期が近づくと水底に潜って体を丸め、丈夫なまゆを作ります。
乾期の間はまゆにこもり、エサを取ることもなく、ただひたすら代謝を抑えてじっとしていますが、やがて雨期になり、池がもとのように水で満たされると、水底からはたくさんの肺魚たちが這い出してくるというわけです。
肺魚がこのようにして乾期を生き延びることができるのは、浮き袋の代わりに肺に似た器官を持っていて、水の外でも呼吸することができるからです。
現在では肺を持つ魚類は少数派です。
ところが数億年も前の地球では、肺魚類以外にも肺を持っている魚類がたくさん暮らしていました。
肺魚は陸上動物へと進化することはできなかったグループですが、肺をより進化させることで、魚でありながら干上がる池にも暮らすことのできる特殊な魚類へと進化していったのです。
熱帯ナマズの仲間には変わった方法で乾期をやり過ごす種類がいます。
クラリアスという、細長く平たい熱帯魚です。
クラリアスは乾期が近づいて住んでいる池の水位が減り、危機感を感じると、突如、水から這い出し、より大きな池を目指して、体をくねらせるようにしながら草原の上を全力で走り出すのです。
クラリアスは少しの間であれば、体が湿っているかぎり陸上を進むことが出来ます。
きっとクラリアスは何らかの感覚器官によって、大きな池がある方向を知ることができるのでしょう。
ちなみにこうした引っ越しは他の水生動物にも見られ、水なしでは生きられないワニも池の水位が減ってくれば、新たな池をめがけ、普段は考えられないようなスピードで草原を駆けていきます。
アナバスという熱帯魚がいます。
木登り魚とも呼ばれるこの熱帯魚、実際に木に登ることこそできませんが、エラの下にあるトゲを足のように使い、地上を歩行することができるのです。
アナバスには肺魚のような肺はありませんが、特殊な構造のエラによって、空気中の酸素を直接エラから取り込むことができます。
飼育もたいへん容易で、水質の悪化にも強く、エサも何でも食べてくれます。
かなり活発に泳ぎ回る熱帯魚なので、アナバスの飼育には少し広めの水槽が適してます。
また、気が強いところもありますので、おとなしい熱帯魚との混泳は避け、できれば単独で飼ってあげることが望ましい熱帯魚です。
陸で暮らす熱帯魚、トビハゼ。
こんなに不思議な熱帯魚はなかなかいません。
とてもよく慣れますので、可愛さもひとしおです。
トビハゼは水中では弱く他種にいじめられやすいため、混泳は避けた方が無難です。
トビハゼとのコミュニケーションを楽しみたいのであれば、単独での飼育が望ましいでしょう。
トビハゼは丈夫で飼いやすい熱帯魚ですが、飼育には必ず海水の素を規定の4分の1ほど入れることが何より大切です。
海水の素さえ入っていればPHや硬度はよほどのことがないかぎり問題ありません。
暑さにも強いですが寒さは苦手なので、陸場も温かくなるよう保温はしっかりしておきましょう。
エサは水に浸した人工飼料を陸に置くと良く食べてくれます。