ベタもグッピーやネオンテトラなどと共に、まだ熱帯魚の飼育が今ほど一般的ではなかった時代から愛されてきた熱帯魚のひとつです。
ベタのその長い優雅なヒレとトロピカルカラーの美しい体色は、いかにも熱帯魚らしい雰囲気を楽しませてくれます。
この長いヒレはベタ・スプレンデンスを品種改良したことによって生み出されたものです。
なお、元となった原種のベタ・スプレンデンスはとてもヒレが短く、ずんぐりとした印象をしています。
ベタはオス同士で激しく争う闘魚としてもよく知られています。
オスのベタを入れた容器を二つ並べたり、鏡を見せたりすると、ヒレとエラを大きく広げて威嚇し、その強烈な色彩も一段と映え、たいへん美しい瞬間を見せてくれます。
また、ベタはエラにラビリンス器官という特殊な構造を持っていて、水面から口を出し空気呼吸することもできます。
このため、水中の酸素不足にはたいへん強く、これがベタはビンのような小さな容器でも飼えるとされるようになった由縁です。
ベタは小さな容器で売られていることの多い熱帯魚ですが、こうした飼い方は少なからず危険を伴います。
確かに酸欠にはならないものの、小さな容器は水質や水温が急変しやすく、これはベタにとって大変なストレスになります。
ベタは何の前触れもなくいきなり調子を崩すことが良くありますので、やはりゆったりとした水槽で定期的な水換えを行うなど、一般的な熱帯魚を飼育するときと同じようにキチンと管理してあげるべきです。
ベタ飼育における日常管理についてですが、真新しい水や古すぎる水はトラブルの原因になることがあります。
水道水に含まれる塩素は十分に抜き、飼育水と同じ温度の水を、週に一回、四分の一くらいづつ交換します。
エサは常に控えめに、少量づつを何回かに分けて与えると調子が良いです。
ベタは繁殖も比較的かんたんに楽しめますので、産まれてくるオスのベタたちを一匹づつ分けて飼育できるだけの余裕があれば、ぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
ベタの繁殖を観察するためには、まずオスとメスを別々に分けて飼います。
普段は控えめにしているエサやりも、このときばかりは、特にメスには十分にエサを与えておきます。
もちろん残りエサが出ないようにだけは注意しておきましょう。
やがてオスは泡で水面に巣を作ります。
このとき水槽に浮き草を入れておくと、こわれにくいしっかりした泡巣ができあがります。
ベタのオスが泡巣を作ったら、ふっくらと丸みのある体型になったメスをオスのいる水槽に入れるだけで、たいてい一日か二日ほどで産卵します。
メスを水槽に入れてしばらくはオスに追い回される場合もありますが、よほどひどくない限りはしばらく様子をみながら、むやみに介入せず見守ります。
ベタの求愛はたいへん激しく、まるでケンカをしているようで、産卵後のメスはたいていヒレがボロボロになってしまいます。
産卵が終わったら泡巣を壊さないようにメスを取り出します。
オスは卵や稚魚をかいがいしく世話しますので、稚魚が泳ぎ出すまではオスに任せておくのが良いです。
ベタのオスは、泡巣から落ちて沈んでいく卵や稚魚を一匹づつ拾い上げて泡巣に戻したり、稚魚にとって害のある生き物が近づかないように警戒したりと、子育ての時期は大忙しです。
稚魚は数日で泳ぎだすようになりますので、こうなればもうオスの保護は必要ありません。
オスは別の水槽に移して大役をねぎらってあげましょう。
ベタの稚魚はたいへん小さいため、泳ぎだしてから2日くらいはインフゾリアなどの微生物を与える必要があります。
水草の枯れ葉、流木などについている小さな微生物は稚魚の重要な初期飼料となりますので、こうした微生物が発生しやすいよう、できるだけ水槽を丸洗いしなくて済むよう日頃からこまめな水換えと適切なエサやりによって、老廃物やコケがわずかに確認できるような、そんな環境づくりをしていきます。
ベタの稚魚は泳ぎだしてから数日でブラインシュリンプ幼生を食べることができるようになります。
こうなれば後は楽で、みるみる大きくなっていきます。
なお、この時期にエサが不足すると重大な成長障害をおこしますので、とにかく十分なエサの確保には留意しておく必要があります。
ベタはオスとメスの区別がつき始めることから、小さいながらもオス同士は激しく闘うようになります。
このまま放っておくと激しいケンカによってオスのヒレは全てなくなってしまい、せっかくの大きく美しいヒレを期待できなくなってしまいますので、オスはすぐに一匹づつ別々の容器に分けてあげなくてはなりません。
メスは大きな水槽にまとめて入れておけますが、たくさんに殖えたオスたちの管理が、ベタの繁殖において最も問題となるところでしょう。
ベタが繁殖した場合、オス同士も小さい頃から一緒に飼っていれば多少は共同生活にも慣れてきますが、常にボロボロでヒレがないという状態では、せっかくのベタの魅力も台無しです。
また、ヒレが切れてしまうと再生しても不揃いになってしまったり、更に根本までヒレがなくなってしまった場合はもう再生もしません。
こうしたことから、やはりオスはできるだけ早いうちに一匹づつ分けて飼育すべきでしょう。
ベタのオスを一匹づつ分けて飼育する場合、300mlくらいの容器でも飼えないことはないですが、このサイズの容器でベタを飼育するには水質が悪化しないよう細心の注意を要しますし、やはりできるだけ1L以上のプラケースでの飼育が適しています。
しっかりしたプラケースなら二段に積み重ねて飼育することもできますのでわずかなスペースにもいくつも置けて便利です。
この場合は必ず同じメーカーの同じサイズのプラケースを用います。
冬場は常時エアコンなどをつけ、20度以下にならないようにする必要があります。
小さなビンに入れられて売られているのは、ベタ・スプレンデンスから品種改良によって生み出されたトラディショナルベタと呼ばれる品種です。
ベタ・スプレンデンスから品種改良されたベタにはトラディショナルベタの他にショーベタと呼ばれる品種もいます。
ショーベタは主にコンテストのために改良されたベタで、尾ビレが大きな三角形をしたスーパーデルタテールや、扇のように大きく開く尾ビレが半月のように美しいハーフムーンなど、専門店に足を運ぶと、普段お目にかかれない美しい品種の数々に魅了されてしまうことでしょう。
こうしたベタは欲しいと思ったときに限って手に入りにくいなど入荷が不安定な面もありますので、もし気になるベタを見つけられたなら機を逃さないようにしたいものです。
他にもヒレがクシのようにバサバサに伸びるクラウンテールや尾ビレが二つに分かれているダブルテールなど、ベタには様々なバリエーションがありますが、性質はベタ・スプレンデンスと同じですので、いずれも丈夫で飼いやすい熱帯魚に変わりありません。
なお、タイではこうした観賞魚としてのベタだけでなく、闘魚としてのベタも改良されていて、ヒレが短く闘争心にあふれたこうしたベタは、プラカットと呼ばれて親しまれています。
ベタにはよく見かけるベタ・スプレンデンスの他にも美しくて個性的な種類がいますが、それらは採取個体か養殖個体かに関わらずワイルドベタと呼ばれ、そのほとんどは少数がたまに入荷するくらいで、あまり一般的な熱帯魚とは言えません。
とはいえ他の熱帯魚にはないワイルドベタ特有の美しさから、多くの小型熱帯魚のファンを魅了し続けている熱帯魚でもあります。
どのワイルドベタにも言えることですが、普段はあまりパッとしない体色をしていることが多いものです。
ところが調子があがってきますと驚くほど強烈な色彩になり、平常時とはとても同じ熱帯魚とは思えないほどになります。
なかでもインベリスやスマラクディナは、その見事な変身ぶりも見どころのひとつです。
ワイルドベタの中でよく見かけるのは、ベタ・インベリスとベタ・コッキーナです。
ベタ・インベリスは古くからピースフルベタと呼ばれ、比較的おとなしいとされているベタです。
メタリックブルーと深紅の組み合わせがたいへん美しく、ワイルドベタの中では飼いやすい種類と言えるでしょう。
地域によって様々な色模様があり、産地別にベタ・インベリスだけを集めて飼育するのも楽しいものです。
ベタ・コッキーナはとても小さなワイルドベタで、似た種も多い上に微妙な地域差もあり、何種類も飼育する場合には水槽にラベルでも貼っておかないと混乱してしまいそうなグループです。
基本的には赤茶色の体をしていてオスにはメタリックブルーの大きなスポットがひとつ入りますが、同じ産地のベタ・コッキーナのオスでもスポットのあるものとないものがあったりします。
かつてブリーディング個体がわずかに流通するくらいだった時代には高価な熱帯魚でしたが、ワイルド便で入るようになってから価格は数十分の一ほどにも下がりました。
ワイルドベタを飼育する場合、熱帯卵生メダカを飼育するような細やかな管理が必要です。
ワイルドベタには水質にデリケートな種も多く、特に入荷直後は油断なりません。
いったん落ち着くと意外な丈夫さをみせることもありますが、調子を崩すとほとんど持ち直さないため、いずれにしても慎重な対応を要するグループです。
水についてはカルキが完全に抜けた水を使いますが、中和剤などを含め、コンディショナー類は使わない方が無難です。
水道水は数日の汲み置きによって、自然に抜けるのを待ちます。
ベタ・コッキーナのような赤系のワイルドベタは土壌の影響で濃い赤茶色の水が流れる弱酸性で硬水の環境に生息するという情報もありますが、飼育下では弱酸性の軟水でも大丈夫です。
水草はウィローモスを入れておけば良いでしょう。
ワイルドベタは水質の悪化で病気になったり調子をくずしたりしやすいので、特にエサの与え過ぎには細心の注意を要します。
食べ残しなどは論外ですが、特に新しい環境に移してまもないワイルドベタには満腹になるまで与えるようなことは避けるべきです。
生きエサよりも人工飼料の方が栄養のバランスに優れ、体色、体型、ともに美しい個体を育てやすくなります。
産卵についても人工飼料のみで問題ありません。
ただし稚魚から幼魚にかけては生きエサが必須で、ブラインシュリンプ幼生を十分に与えます。
イトミミズなどは体液をまき散らし水を汚しやすいので特別な事情がない限りは与えない方が無難です。
ブラインシュリンプの幼生は小型種には良いエサですが、より良い色彩や体型のためであれば、このエサにこだわる必要はありません。
良質なものであれば人工飼料にも慣れやすく、粒状で沈降性のものが適しますが、浮いたエサにもすぐに慣れてくれるでしょう。
なお、フィルターが設置してある場合はエサが水流でばらけて食べ残しにならないよう、粒状で浮力の強いエサを選びます。
ベタの繁殖方法として良く知られているのは、流れのない水面に泡で巣を作り、そこで子育てをするバブルネストビルダーですが、ベタには口の中で卵を守るマウスブルーダーのグループもいます。
もっとも有名なのはプグナックスで、日本でも熱心なベタファンの間では数十年以上も間から知られていました。
日本のアクアリストの間で繁殖が盛んになってきたのは今から20年ほど前のことです。
マウスブルーディングベタで繁殖が容易なのは、ベタ・プグナックス、ベタ・ピクタ、ベタ・ユニマキュラタ、ベタ・ディミディアータなどです。
オス同士はベタ・スプレンデンスほどではないにせよ、かなり激しく争う場合がありますので、基本的にオス同士の混泳は避けるべきです。
繁殖した際にも雌雄がわかったらすぐに個別に飼うようにした方が安全です。
特にベタ・ディミディアータなどは分けるタイミングが遅いと、せっかくの美しい長いヒレをあきらめなくてはならなくなります。
マウスブルーディングベタの繁殖のためには特別なことをする必要はなく、状態の良い水槽にペアだけを入れて十分にエサを与えるだけです。
産卵すればオスの口が大きく膨らむので、すぐにわかります。
メスは取り出して休ませましょう。
稚魚が泳ぎ出すまではオスにエサを与える必要はありません。
そのためにもメスだけでなくオスにも事前に十分なエサを与えて体力をつけておきます。
マウスブルーディングベタの稚魚は親魚の口から泳ぎ出した頃にはすでに大きく育っていて、ブラインシュリンプ幼生を食べることができるため、その後の育成はとても楽です。
ただし水質や水温が合わないと口の中で卵がうまく育たないため、このあたりがマウスブリーディングベタの繁殖を成功させる上での鍵になります。
特に高水温には要注意です。
ベタはオス同士で激しく争う闘魚であり、ベタのオス同士を混泳させるべきでないのは、たとえ熱帯魚の飼育を始めたばかりの初心者であっても周知の事実でしょう。
確かにベタのオスはお互いの姿をみるや直ちに激しい威嚇を始め、一緒にしてみると体を丸めてお互いに襲いかかります。
それこそ瞬く間にどちらのベタもヒレがボロボロになってしまい、鑑賞価値が激減してしまうことは言うまでもありません。
ただ、意外に他の熱帯魚とは混泳できる場合が多く、実際のところ、ネオンテトラ、カージナルテトラ、チェリーバルブ、アカヒレ、各種ラスボラ、パールダニオ、ネオンドワーフレインボー、プラティ、ヴィリアタス、オトシンクルス、各種小型グラミーなどとは、ベタと問題なく混泳しています。
もちろん自然界ではベタのオス同士も同じ池や川に生息していますので、いくつかの条件を整えてあげれば、成長したベタのオス同士を10リットルくらいの水槽で混泳させることもできますが、激しいけんかこそ避けられても、週に一度はどれかの尾ヒレが破れていたりといったことは起こりますし、まず決しておすすめできるものではありません。
ベタを複数で飼育してみたいというのであれば、比較的けんかをしないピースフルベタを飼育すべきです。
ピースフルベタとしてはベタ・インベリスが古くから知られていますが、この種とて、けっこうやり合うことがありますので、少なくとも逃げ場となる場所を水草などでしっかりと確保してあげることが大切です。
経験上、ベタの中で最も混泳に向くのは、ベタ・コッキーナです。
この種はオス同士を小さな水槽に何匹か入れても、多少の小競り合いはあるものの、ほとんど傷つけるようなことはありませんでした。